・コモエスタ!セニョール

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コモエスタ!セニョール!!(第一章)
no.001-1

こいつが噂のお化け屋敷?

 僕が彼の存在を知ったのは、1998年6月、ベルギーのブリュッセルのユースで知り合った日本人の女性からその噂を聞いたのが最初だった。

「バルセロナに怪しい日本人が経営する安宿があるらしい。」
「その経営者は、自分の事をセニョール矢田と名乗っている。」
「しかも、その安宿の名称は難民会館。」
「最近、セニョールはサイババにはまっているらしい。」

なんだよセニョール矢田って、ある意味、ムッシュかまやつもびっくりだよ。
で、サイババ?
本当、これだけでも、充分興味を引かれるのだが、僕は、まだまだこれから、彼の魔力に、どんどんと取り憑かれていくことになる。
 その矢田さんの話をそのブリュッセルのユースでしているとき、もう一人、髪の毛(ロン毛)を左右にキャンディーキャンディーのように結んでいる怪しい日本人男性がやってきて、僕たちの会話に参加した。
すると、そのキャンディーキャンディーも矢田さんを知っているらしく、その難民会館のチラシをも持っていた。
そのキャンディー自体かなり怪しい人物だったのだが、そのキャンディーの彼の口からも、矢田さんは怪しいとしきりに言っていた。
そして、キャンディーの彼から、その難民会館のチラシを見せてもらったところ、いくら安宿とは言え、とうていホテルのチラシに思えない、汚い手書きで、しかもA4サイズを4分割にして、1枚持ってる人が旅先で会った人たちに配れるようなってるお粗末でありながら、しっかりと商売根性丸出しの代物だった。

で、そのチラシの内容はというと、

「一泊朝食付きシングル1800ペセタ!(当時は円安でちょうど1800円ぐらい)」
「日本茶いれます!」
「お食事会あり!アンコウ鍋!カレー!チャーハン!たまごかけ御飯!などなど」

だいたい、アンコウ鍋自体、変だが、最後のたまごかけ御飯って何?
それで、お食事会って何?
しかもしかも、
「電話番号2848187は『庭師ハイ花』と覚える!」
とか、わけわからんことが書いてある。
たいへん心打たれた僕は、いつか客として行こうとその時、心に決めた。


コモエスタ!セニョール!!(第二章)
no.001-2

帰りたい…帰れない…

 しかし、3ヶ月後・・・。
お金を使いはたし、日本へ帰る航空券代すらなくなり、日本に帰ることも、旅を続けることもできなくなった僕は、セニョールの話を思いだし、バルセロナへ向かった。
バルセロナへ向かう二日前、僕は一応、連絡を入れようと、マドリッドから『庭師ハイ花』へ電話をした。
すると、電話に出たセニョールは、旅の途中、何人もの旅人に難民会館を紹介していた僕のことを既に知ってた。

「あなたが岩井さんですか。お待ちしておりました。たくさんの人に紹介していただいて本当にありがとうございます。」

どうやら、僕が、おもしろトークとしてセニョール話をしていたのを聞いた旅人がたくさん難民会館に訪れたようである。
僕は、この電話の応対を受けて、僕がセニョール邸に行ったら、きっとVIP待遇なんだろうと思った。しかし、バルセロナへ着いてすぐに訪れたセニョール邸では、御を仇で返すという言葉が、まさに当てはまる仕打ちを受けることになる。
 まず、僕が旅の途中、会う人会う人に話してたせいか、セニョール邸では、かなりまれな超満員になっていた。
おかげで、寝室がなくなってしまっており、VIP待遇どころか、めちゃめちゃ散らかった物置部屋と化している(本来は客人が集まって話しなどが出来るテレビルームらしい)大部屋に押し込められた。
まあでも、働かせてもらう身分だから仕方ないかと思い、僕は、「まっいっか」。
で、僕は、帰りの航空券が買えるまで、宿泊代・飲食代をタダ。
そして給料として晩ご飯代の売り上げ(だいたい僕の日給は300から900ペセタ。当時でちょうど300円から900円ぐらい。今なら200円から600円ぐらい)をもらうという条件で、その難民会館で働かせてもらうことになったのだが・・・。


コモエスタ!セニョール!!(第三章)
no.001-3
 で、噂のセニョールの第1印象は、やっぱり凄かった。
本物は噂以上だった。
とりあえず、セニョールはズラだった。
しかも、ベルトをズボンに通さず、チャンピオンベルトのようにして止めている。
しかもしかも、お尻がくいこむぐらいズボン上げすぎ!

その時は、働かせてもらわなければいけなかった立場だったので笑えなかったが、今考えてみても、やっぱりあれはおかしすぎる!
そんな奴、絶対いない!!
そして、彼はサイババ信仰者だけに、ベジタリアンで、基本的に肉は食べないし、客にも出さない。
だから、食事を作ると言っても、ほとんど毎日、タマネギとニンジンそして空豆のような豆だけ渡されて、
「今日はこれでお願いします。」
と言われて、毎日ほとんど同じ材料だけで、毎日違うメニューをつくらなければいけなかった。
自分で食べる分には、腹にモノが入ればいいので問題ないのだが、お客さんに出さなければいけないものなので、かなり苦労したし困った。
でも、ベジタリアンといっても、卵だけは食べるようで卵は毎日買ってきてくれた。
この辺、あの汚いチラシに卵かけ御飯と書くだけのことはある(?)。
で、チャーハン・野菜炒め・オムレツ・カレー・パエリアのローテーションでなんとかお客さんを飽きさせないようにしてた。
ここでひとつ。
カレーと言っても、もちろん肉なし。
しかもカレーのルーなんてものはなく、パキスタン人の経営する乾物屋で、カレー粉っぽい黄色い香辛料だけ買ってきて、それでカレーっぽいものを作っていたので、厳密に言えばカレーもどき!
普通、香辛料でカレーを作るにしても、何種類もの香辛料を混ぜ合わせて作るのに、セニョールは、勘違いしてて、黄色の香辛料ひとつあれば、カレーはできると思いこんでいる。
しかも彼が思い描くカレーは日本のとろみのあるカレーライス。
しかし、黄色の香辛料ひとつで普通につくっても、おいしいわけもなく、とろみさえないカレーしか出来ないので、小麦粉入れたり、いろんな工夫をしごまかしていた。
で、パエリアも、もちろん野菜だけ。
普通、魚介類が入って、そのダシでおいしくなるはずなのに・・・。
だから、パエリアとチャーハンの区別がいまいちよく分からない。
この辺も、ずっと間違ってるセニョールです。

コモエスタ!セニョール!!(第四章)
no.001-4

【庭師ハイ花!!】

 コスいのは食事だけでなく、他のことでも、ある意味徹底してた。
まず、ホテルのくせして、トイレに紙をおいてない!
それで、お客さんに言われても、
「うちは、トイレットペーパーは自前でお願いしています。」
・・・・・
そんなホテル、他にどこにある!?
しかも、
「地中海を汚したくない!」
との理由で、洗剤は一切使わない!
だから、食器洗うのも、水だけで洗うし、しかもしかも、水を蛇口から出しっぱなしにして洗うのではなく、桶に水を貯めて全ての食器をその水で一度に洗い、そのうえ、洗い終わった水は排水溝に捨てるのではなく、庭の植木に与える。
食器を洗った後の腐り水を与えた草花は、ブーゲンビリアの花など咲くわけも無く、もちろん枯れてます。
見るからに植物たちがうめき声をあげてるようです。
さすが、この辺は『庭師ハイ花』です。
洗剤なしの手洗いの食器の方も、もちろん常に油ぎってて、なんとも言いようのない光沢を放ってるナチュラルコーティングです。
しかもしかもしかも、シーツを洗濯するのも、洗剤なしの手洗い!
だから、これもまた、いくら洗っても洗っても、シーツは、もちろん常に黄ばんでる。
セニョ言わく、「環境派!」らしいが、自分一人そういうことするならわかるが、いくら安宿といっても客商売やってるんだから、わりきらないと・・・。
 そんな僕の感情に反して、セニョは我が道を進み続けた。


コモエスタ!セニョール!!(第五章)
no.001-5

『あなた!でしたか?』

 そんな彼が、不信感を抱いてる僕に対して、よく口にしたのが、伝説のバックパッカーの話だった。

(セニョ談):「昔、ここに来た人で、腐った水を沸騰させて飲んだ奴がいた。彼は僕の言うことをよく理解している・・・」

(はっ?水道が目の前にあるんだから、わざわざそんな水、飲まなくても水道水、飲めばいいじゃん。逆に水沸かす方が光熱費かかるんじゃないの?)と僕を含めた普通の人はそう思うが、彼の正義には反してるようだ。

(これは後で知ったことなのだが、その泥水を沸騰させて飲んだという伝説のバックパッカーは、そうあのブリュッセルで出会ったキャンディーだったのだ・・・やっぱりというか地球規模でもあるところでは世間ってのは狭い…。)


コモエスタ!セニョール!!(第六章)
no.001-6

スイマセン。セニョの写真は入手困難!

 基本的には、セニョール矢田というおっさんは、こういう人間なのだが、時に複雑な感情の人間になる。

 ある日、矢田さんとの会話の中で、
「矢田さんは、何かスポーツとかするんですか?」
と訊いたことがあった。
その時の、おっさんの回答は、
「パン食い競争!!」
本当、訳がわかりません。
  他には、矢田さんが日本に一時帰国する際、直径1mを越えるパエリア鍋を日本に持って帰ろうとしているのを見て、僕は訊いた。
「矢田さん!それ、どうやって持って帰るんですか?」
すると一言。
「亀仙人!!」
マジ分けわかりません。


コモエスタ!セニョール!!(第七章)
no.001-7

万歳!!

 そんな彼は、これもサイババに関係しているのか定かではないが、しょっちゅう人目を気にせず、妙に甲高い声で歌を歌う。
その歌声を聞いたお客さんで、怖くて眠れなくなったという人は少なくなかった。
また、長期滞在のお客さんの中にはその歌を聴いた日は必ず何かのハプニングに遭うという人もいた。

でも、なにより、その歌が、矢田さんがその日の気分で適当に作詩作曲してるものだというのが僕は一番恐怖に思う。

  最上階にある彼の部屋(通称モスク)から今も、不気味な歌声は響いてることでしょう。


コモエスタ!セニョール!!(第最終章)
no.001-8

【この屋敷のあるベルディー通り】

 話、変わって、そんな彼の代名詞とも言えるヅラについて少し書きましょう。
バルセロナの地下鉄の1番線のGLORIES(グロリエス)という駅近辺で毎週行われるノミの市があります。
 彼のヅラは700ペセタで段ボールの中に山積みにされ売られている。
その店の前を東洋人が通りかかると、店主はズボンを上げるジェスチャーをする。
グロリエスでは、あのチャンピオンベルトがすっかり知れ渡ってるようです。
 
  そんなバルセロナでは数々の伝説を作り続ける彼ですが、密かに結婚願望の強い彼は、年に何度かお見合いの為、日本に帰国してるらしい。
 そんな帰国中の彼を偶然見かけた人の話では、彼が着ていたジャンパーの背中に、大きく、
「Espana policia」
と書かれていたらしい・・・。

彼の野望ってなんなんだろう?

  彼の宿の本棚には、『成功哲学』・『成功するための12箇条』・『金儲けマニュアル』といった本がサイババの本とともに並んでおり、その本を開けば、びっしりと赤線でチェックがしてある。

  確かにラテン系?ですね。
合点!!


no.002

 ・・・

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